手作業とヒューマンエラー

ボクが生まれた年に生産された、国産有名メーカーのグランドピアノのオーバーホールを始めました。

同い年なので、43年前に作られたということになります。

新しいピアノに比べると、材料や工作的な部分のこだわりや工夫の跡が見られたりするので、各部を詳細にチェックしながら分解するのも楽しい作業です。

手作業の行程も、当時はかなり多かったのではないかと想像します。

そんな中で、今日は珍しくヒューマンエラーの痕跡を見つけたので、珍しいが故に書いておこうと思います。

弦を外しボディーからフレームを抜き取る作業を行っていたのですが、フレームを吊り上げて抜き取ってみると、その下から見慣れぬ物体が出てきました。

ひとつの側面が王冠の様にギザギザの形をしたトタン板にパンチカーペットの様な厚手のフェルトが貼ってあります。

裏には「5」という番号がふってあるので、工作用の治具か何かでしょう。

しばらく考えながら他の作業を進めていたのですが、それにしても、トタンが直に響板に接触していたことを考えると、長年の使用中にはかなり雑音が出ていたのではないかと思います。

それとも、折り曲げた王冠状の部分がうまくクッションになって、たまたまうまく振動を吸収していたでしょうか?

この仕事は業者さん経由なので、実際に使用していた方には尋ね様がないので残念ですが、かなり怪しいと睨んでいます(笑)
(追記:気になって確認したところ、なんと、この物体由来の雑音は出ていなかったとのことでした!一端はフレームに挟まれ、逆側が王冠のクッションで奇跡的にうまく制振されていた様です。柔らかいトタンに厚手のフェルトが貼ってあること、響板ニスの粘度が高いことなど、幸か不幸かたまたま良い条件が重なったのかもしれません。)

それとは関係ないのですが、この頃のこのメーカーのグランドピアノの雑音の原因のひとつに、これに近い部分で、フレームとボディーの隙間の見栄えを考慮して響板のボディーが被る部分の周辺を外装塗料で少しだけ重ねて塗ってあるのですが、

響板塗料の柔らかいニスの上に外装用の固いポリエステルが塗ってあるので、そのうちにポリエステルが剥がれてきて浮いた様になり、その部分が振動して雑音が出るというのがあります。

フレームを外す作業をするときには、この部分は剥がして響板と同じ種類の塗料で塗り直すのですが、フレームを外さずにこの作業をすることはなかなか困難だと思います。

少し脱線してしまいましたが、これだけのレベルでも雑音が出るくらいなので、トタン板はやはり致命的ですね。

で、この物体はいったい何なのか?と考えながら作業を進めていたのですが、どうやら・・・

とうことで、王冠の部分はこの様にしてボディーの曲面にぴったり沿わせるためだと考えると、フレームを載せる際の干渉防止のための治具ではないかという結論に達して、やっぱり製造段階のエラーの様な気がするのですが、あまりにも合理的なことのみが優先される昨今の製造業にあっては、なんだかこんなミスすら微笑ましく感じてしまうのが、いったい、良いのやら悪いのやら・・・

なんともビミョーな心持ちです。

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