カテゴリー別アーカイブ: ピアノ修理

キーブッシングクロスの貼り換え

鍵盤の本体は、長手方向の真ん中あたりのバランスピンで支点として支えられ、手前側のフロントピンによって動きをガイドされる様な構造になっています。

なので、鍵盤にはバランスピンが収まる穴とフロントピンが収まる穴が開いているのですが、鍵盤が上下にスムーズに動きながら左右方向の動きは制約させるためにフェルトに繊維の入ったクロスが貼ってあります。

衣類などにつく虫がピアノにも入り込むことがあり、フェルト類が齧られて役割を果たさなくなりことがあるので、その場合には新しい物に交換します。

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虫に齧られたキーブッシングクロス(バランス)

虫に齧られたキーブッシングクロス(バランス)

ここでひと仕事する前にコーヒータイム
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…ではなくて、
古いクロスの接着剤を蒸気で溶かして剥がします。
カフェ時代にコーヒー屋さんにいただいたコーヒー用のポットは注ぎ口が細くてお気に入りです。

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2〜3秒蒸気に当てると接着剤が柔らかくなるので、ピンセットで剥がします。
今日は暖かい日だったので、蒸気が写真に写っていなくて残念(笑)

バランスブッシング交換

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剥がしたブッシングクロスと新しいブッシングクロス

剥がしたブッシングクロスと新しいブッシングクロス

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接着剤を付けて、新しいブッシングクロスを貼ります。
穴の両側に貼るために新しいクロスの両端から使用するのですが、新しいブッシングクロスは(2つ上の写真)そのために真ん中で一度折り曲げて巻いてあるところが、バットスプリングコードと同様にメーカーの親切心を感じます。

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クサビで穴の両側にクロスを押さえつけながら貼っていきます。

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大橋ピアノ OHHASHI 125 濃い木目の外装修理

オオハシの125の外装修理の前後の様子を画像でご紹介します。

「図面ができると、音が聞こえる」という天才肌のピアノ職人”大橋幡岩”が作ったメーカーのピアノということで、音の表現力には定評があり、メーカー自体は残念ながら無くなってしまいましたが現在もなお根強いファンを持つブランドのピアノです。

今回お預かりしたピアノは、お客様ご自身も「黒」だとばかり思っていらっしゃったほど濃い木目のピアノです。
黒ならば補修して塗りつぶしでOKなのですが、木目を残して補修〜再着色ということで、塗装下地からのやり直しとなりました。

まずは、全体像のビフォー/アフターです。

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(Before)

ohhashi125-after01
(After)
写真で見ても黒に見えるくらい濃い木目です。

全体的に擦り傷、打ち傷が多く、加えて着色層の色褪せとコーティング層の劣化による白濁や変質があります。 表面の補修や磨き直しではきれいにならないので、現在の塗装を一度剥離して、補修〜着色〜上塗りする必要があります。

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(↓塗膜を剥離しているところ)
ohhashi125-before2

各部のパネルについて、塗膜剝離〜傷補修〜着色〜下塗り〜下地調整〜上塗り〜磨き仕上げの工程を施し、組み立てます。

ohhashi125-before02
(Before)

ohhashi125-after02
(After)

このピアノには象牙の鍵盤が奢られていましたが、黄色く変色して上面も凹んでいたので、薬品とサンディング〜磨きで漂白・整形し直します。
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(Before)

ohhashi125-after03
(After)

ここにきて、やっとで木目だということが分かる写真が出てきました(笑)
ohhashi125-after1

作業の内容のご紹介は端折っていますが、ねじ1本までチェックしながら作業を進めています。
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手作業とヒューマンエラー

ボクが生まれた年に生産された、国産有名メーカーのグランドピアノのオーバーホールを始めました。

同い年なので、43年前に作られたということになります。

新しいピアノに比べると、材料や工作的な部分のこだわりや工夫の跡が見られたりするので、各部を詳細にチェックしながら分解するのも楽しい作業です。

手作業の行程も、当時はかなり多かったのではないかと想像します。

そんな中で、今日は珍しくヒューマンエラーの痕跡を見つけたので、珍しいが故に書いておこうと思います。

弦を外しボディーからフレームを抜き取る作業を行っていたのですが、フレームを吊り上げて抜き取ってみると、その下から見慣れぬ物体が出てきました。

ひとつの側面が王冠の様にギザギザの形をしたトタン板にパンチカーペットの様な厚手のフェルトが貼ってあります。

裏には「5」という番号がふってあるので、工作用の治具か何かでしょう。

しばらく考えながら他の作業を進めていたのですが、それにしても、トタンが直に響板に接触していたことを考えると、長年の使用中にはかなり雑音が出ていたのではないかと思います。

それとも、折り曲げた王冠状の部分がうまくクッションになって、たまたまうまく振動を吸収していたでしょうか?

この仕事は業者さん経由なので、実際に使用していた方には尋ね様がないので残念ですが、かなり怪しいと睨んでいます(笑)
(追記:気になって確認したところ、なんと、この物体由来の雑音は出ていなかったとのことでした!一端はフレームに挟まれ、逆側が王冠のクッションで奇跡的にうまく制振されていた様です。柔らかいトタンに厚手のフェルトが貼ってあること、響板ニスの粘度が高いことなど、幸か不幸かたまたま良い条件が重なったのかもしれません。)

それとは関係ないのですが、この頃のこのメーカーのグランドピアノの雑音の原因のひとつに、これに近い部分で、フレームとボディーの隙間の見栄えを考慮して響板のボディーが被る部分の周辺を外装塗料で少しだけ重ねて塗ってあるのですが、

響板塗料の柔らかいニスの上に外装用の固いポリエステルが塗ってあるので、そのうちにポリエステルが剥がれてきて浮いた様になり、その部分が振動して雑音が出るというのがあります。

フレームを外す作業をするときには、この部分は剥がして響板と同じ種類の塗料で塗り直すのですが、フレームを外さずにこの作業をすることはなかなか困難だと思います。

少し脱線してしまいましたが、これだけのレベルでも雑音が出るくらいなので、トタン板はやはり致命的ですね。

で、この物体はいったい何なのか?と考えながら作業を進めていたのですが、どうやら・・・

とうことで、王冠の部分はこの様にしてボディーの曲面にぴったり沿わせるためだと考えると、フレームを載せる際の干渉防止のための治具ではないかという結論に達して、やっぱり製造段階のエラーの様な気がするのですが、あまりにも合理的なことのみが優先される昨今の製造業にあっては、なんだかこんなミスすら微笑ましく感じてしまうのが、いったい、良いのやら悪いのやら・・・

なんともビミョーな心持ちです。