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バットスプリングコード(フレンジコード)張り換え

ピアノのアクションの修理のうちで、ヤマハの特定の年代(1970年代頃に製造されたもの)によくある修理です。

アップライトピアノはグランドピアノと違って、ハンマーは打弦後重力で戻る力が働かないので、それを補助するために(弦を叩いた後はその反動で戻りますが、戻った位置で安定せずピアニッシモや連打などで鍵盤の次の動きに追従しないので)小さなバネが取り付けてあります。

ハンマーはシャンク(棒)の先端に取り付けられ、それはバットという部品に植え付けられています。

バットはセンターピン(軸)を介してフレンジ(軸受け)とつながっていて、そのフレンジはアクションのセンターレール(すべての部品の基準となるレール)に取り付けられています。

最初の小さなバネはバットに取り付けられていて(バットスプリング)、フレンジ側に貼られた紐状のスプリングコード(フレンジコード)に引っ掛けてバネの力を働かせる構造になっています。

このスプリングコード(フレンジコード)は経年劣化で破損する場合があって、上記の様な本来の仕組みが働かなくなり、また、そのまま使っているとスプリング自体も破損してしまうので、この症状が現れたものは張り替えます。

(一部に症状が現れているものもいずれ時間が経てば他の部分も同様に破損するので、全体を交換することをお薦めしています。)

スプリングとスプリングコード。コードがちぎれてスプリングが飛び出したものがあるのが分かります。

コードが破損したまま使っていると、スプリングもシャンクと干渉して折れ曲がってしまいます。

バットをフレンジのセンターピンに固定しているバットプレートのネジを緩めてバットを外します。

スプリングコード(フレンジコード)が見える様になります。

劣化したコードを、メタノールを染み込ませて接着を切って、専用の工具でかき取ります。

劣化したコードをきれいにかき取って、フレンジにあるコードが入る溝を露出させます。

劣化したコードと新品のコード

少し余談になりますが、補修用のスプリングコードは円筒状の芯にきれいに巻かれた状態でメーカーから供給され、カッターを入れると同じ適当な長さのコードが必要な分だけ即座に作れる様になっています。


この様な工夫はさすがだと感心します。

おかげで、同じ適当な長さでコードを張ることが出来ます。

これでバットスプリングコード(フレンジコード)張り換え作業自体は完了ですが、せっかくフレンジが露出しているので、フレンジのセンターピンに潤滑剤をさしておきます。
このピアノの場合、アクションの動きにはとくに不具合がありませんでしたが、センターピンはけっこう錆が出ているのが分かります。

また、曲がってしまったスプリングのうちで、極端なものを交換します。(バットスプリングの交換)

「く」の字に曲がった部分もそうですが、付け根の部分から既に角度がついてしまっていることが分かります。

スプリングは金属なので金属同士で可動部分が接触しない様、この軸は金属のセンターピンではなくピンコード(紐)が使われています。

紐(スプリングピンコード)を通して…

両端をきれいにカットします。

ピアノが新しいときの弾きやすさは、各部の摩擦抵抗が無いことや、この様なスプリング類の弾力が保たれていることが大きいと思うので、破損しないまでも本当は交換をお薦めしたい部分ではあります。

後はバットをセンターレールに戻し…

ハンマーレールを取り付けて作業終了です。

作業時はウィペンが下がるので、ジャックのスプリングが外れていないかをチェックします。(外れているとそれだけでスプリングコードが破損している以上に分かりやすく不具合が出て残念なことになります)




白鍵の貼り換え

ピアノの鍵盤の修理についてご紹介します。

ピアノの鍵盤は木製で、組み立てたときに外側から見える部分には樹脂(古いものは象牙など)を薄くした板状のものが貼ってあります。

上面はピアノを演奏するときに直接指が触れるので細かい傷等がつきやすいですが、それ以上に、経年劣化で変色したりひび割れしたり表面が柔らかく溶けた様になったり変形したりするものもあります。

特にメーカーの製造時期等によって、鍵盤の手前側(木口)の劣化が著しいものが多いのですが、症状が進行すると変形した木口が手前の口棒と呼ばれる部分と干渉して、鍵盤が戻らなくなったりすることがあります。

この様な場合には、鍵盤の樹脂を張り替える修理をします。

変形してめくれ上がった木口を剥がします。

新しい木口と剥がした木口

ついでに、上面にもひびが入ったものがあったので、交換します。
熱で暖めて樹脂を柔らかくして接着を切ります。

樹脂(アクリル)を溶剤で溶着してあるので、樹脂自体が変形すればきれいに剥がすことが出来ます。

新しいものを再び溶剤で接着します。

交換用の部品は少し大きめに作ってあるので、鍵盤の大きさに合わせて整えます。(写真は上面ですが、木口も同様です)

後は、上面の傷を磨いたり、側面の汚れを削り取ったりしてピアノ本体に戻し、形をヤスリで微調整して完了です

上面の先端が欠けたり深い傷がついたりしたときも、部分的な補修ではなく1本単位で張り替えをします。

ピアノ修理(ウィペンヒールクロス貼り換え)

ピアノの修理についてご紹介します。

ダンパーレバークロス貼り換えと同様に、金属または木製の部品との摺動面にあるフェルトが削れてしまう例です。

アップライトピアノのハンマーは、普段見えている部分から先もピアノの内側に続いていて(見えている部分の3倍ほどの全長があります)全長の真ん中を軸にシーソーの様な動きをしてアクションを動かしています。

鍵盤の最後部には、アクションを動かすためにキャプスタンボタンが取り付けられていて、アクションのウィペンと呼ばれる部分を下から押し上げて鍵盤の動きをハンマーに伝えています。

キャプスタンボタンは、現在ではほとんどが表面がツルツルの樹脂製ですが、古いものは木製のものも多くあります。

ボタンの形状は長細い円筒形をしていて、ウィペンと接する端面はドーム状に真ん中が高い球形になっていますが、端面は木口方向(生えている木に対して切り株の様に直角に切った方向)になるので、材質の管理や使用の条件などによってその表面がささくれた様に荒くなっているものがあります。

ウィペンのボタンと接するところには、ウィペンヒールクロスという固くて繊維の入ったフェルトが貼ってありますが、ダンパーレバークロス貼り換えと同様の理由で、それがボタンによって球形に抉られてしまいます。

動作としてもダンパーレバークロスの場合と同様に、抉られた穴から脱出するために余計な力が必要になったり、途中で引っかかって動きが悪くなったり動かなくなったりするので、ウィペンヒールクロスを新しいものに張り替えます。

また、キャプスタンボタンの頭頂部も整形し表面を滑らかにして、仕上げに黒鉛を刷り込む様にして塗布します。