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ピアノの「リメイク」

ピアノは家族の宝物

ピアノの修理の仕事をしていると、ピアノというのはその持ち主やご家族にとって、とてもたくさんの思い入れがある大切な宝物だと感じることがよくあります。

だからこそ、そんなピアノを思い思いの形に再生する「ピアノリメイク」は、わざわざ遠くからでも作業のご依頼をいただけますし、仕上がった後も喜んで使っていただいていて、そんな様子を拝見するとご家族はもちろんピアノも喜んでいる様な気がして、作業を手がける自分もお役に立てた気がしてとても嬉しいのですが、中には思い入れがあっても事情がそれを許さない場合ももちろんあります。

ピアノリメイクとは

「ピアノリメイク」ということばについて、工房を始めた当初、ピアノをいろいろな色に塗り替えるというサービスは全国的にもごく限られていましたので、サービス自体をまず世間の方々に認識していただくということが大きな課題でした。

ピアノを塗り替えるサービス自体に名前をつけようと思い、「リフォーム」や「リノベーション」などの単語が頭に浮かんだのですが、抽象的過ぎたり耳馴染みがなかったりで迷った挙げ句、「リフレッシュ+メイクアップ」の文字から取って「リメイク」という言葉にすることを決めました。

ですが、リメイクの本来の「作り直す/作り替える」という意味でお問い合わせいただくこともあり、結局こちらではお力になれなかったものの、その思いが伝わり広がっているニュースがありましたので、ぜひ当方でもご紹介させていただきたいと思います。

ピアノを「リメイク」する

あるとき、1通のお問い合わせのメールをいただきました。

幼い頃にご両親に買ってもらったピアノ・・・大変思い入れがあるので手放すことはしたくないけれど、ご事情で使い続けることが困難なので、形を変えてテレビボードとして再生し、毎日使い続けたい。

という様な内容でした。
ご自身でお描きになった詳細な完成図等もお送りいただき、この方の思い入れやお気持ちはたいへんよく分かりましたので、当方に出来る範囲でご対応させていただきました。
ただ、当方からは距離も遠く、運賃もたくさんかかり詳細な対応が困難なこともあって悩んでいたところ、たまたまインターネット上にピアノを家具に作り替えたという例を見つけ、お問い合わせいただいた方のお宅からもそれほど遠くない様でしたので、そちらをご紹介させていただきました。

結局その方はそちらの工房で作業を依頼されることとなり、思い通りのテレビボードも完成したという経緯などもお伝えいただき、めでたしめでたしの結論となったわけですが、そのお話にはまだ続きがあった様子で、それがまた何とも良いお話だと思いこの記事を書いています。
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広がる輪 繋がる音

その後もその方からはご連絡をいただいていて、同じ思いの他の方々も同様にその工房で作業を依頼していることなどをお伝えいただいていました。

つい先日、インターネットでピアノ関連のニュースを見ていたところ、
「思い出の音色再び、余った部材で木工職人がピアノ復元/川崎」
というニュースがありました。

かいつまんでご紹介させていただこうと思いましたが、記事が秀逸で省くところが見当たらないのでほぼ丸ごと下に引用させていただきます。

 注文家具などを手掛ける傍ら、古くなったピアノを家具として再生する作業に取り組む川崎市宮前区の木工職人柴原勝治さん(53)が、余った部材を用いて1台のピアノを製作した。「持ち主が愛した音色を広く共有したい」。そんな思いで、生まれ変わったピアノを地域に無料で開放したいと考えている。

「夫の形見としてピアノを残しておきたい」。そんな女性の相談から始まった「再生プロジェクト」。これまで、それぞれの家族の思い出が詰まった計4台をテレビボードや机などの家具としてよみがえらせてきた。

「解体し、家具に変身させる。果たしてその繰り返しで良いのか」。柴原さんの胸の内には、いつしかこんな疑問が募るようになった。

きっかけは昨年3月。分解前のピアノが楽器としての役割を終える前に「お別れコンサート」を自身のギャラリーで開いたときだった。このピアノは「亡き母が50年近く大切にしていた」という都内の女性によって持ち込まれたもの。コンサート中、ピアノの音色を楽しむ女性やその家族の笑顔の裏に「その音がなくなってしまうことへの悲しみがあるように感じた」と柴原さんは言う。

そこで、家具への再生と同時進行で同じ形のピアノを作ろうと思い立った。外枠の木材で家具を手掛ける一方、鍵盤やフレーム、ハンマーなどの部材と新たに用意した木材を組み合わせ、もとのピアノそっくりの1台を仕上げることに成功した。

柴原さんは今、地域の子どもたちにこのピアノを弾いてもらえたらと考えている。毎月第4日曜日に無料開放の日を設け、地域の交流や音楽教室などとして利用してもらうという構想だ。

「この先も楽器として生かし続けたい」。持ち主が長年愛情を注いできたピアノの音色が、この先大勢に受け継がれていくことを願っている。

心より出ず ふたたび心に至らんことを!

心より出ず ふたたび心に至らんことを!
Vom Herzen―Möge es wieder zu Herzen gehen
ベートーヴェンが荘厳ミサ曲の楽譜の最初に記した言葉です。

実は、最初にお問い合わせいただいた方も、テレビボードの完成度には大変満足されているご様子でしたが、ピアノがピアノでなくなるということについては当初より思い悩んでいらっしゃる様でした。

たぶんこの職人さんは、その様なご依頼主の表情を汲み取って、この方がお持ちの技術を最大限に生かしてそれを払拭されたのだと思います。

日本人の歴史を研究された方に「職人」階級が人と人を結びつける信頼関係(社会の道徳規範)を形作った要因であると言われた方がありましたが、この職人さんは数少なくなったそういう意味での職人さんの様な気がします。

そして何より、「大切なピアノをなんとかしたい」という人の気持ちがそうやっていろんな人の心を動かし伝播しながら広がっていく様子は、なんとも素晴らしく感動的です。

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最後に、引用の許可をいただきましたので、以下に最初にお問い合わせいただいた方のブログの関連記事をリンクさせていただきます。

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