キーブッシングクロスの貼り換え

鍵盤の本体は、長手方向の真ん中あたりのバランスピンで支点として支えられ、手前側のフロントピンによって動きをガイドされる様な構造になっています。

なので、鍵盤にはバランスピンが収まる穴とフロントピンが収まる穴が開いているのですが、鍵盤が上下にスムーズに動きながら左右方向の動きは制約させるためにフェルトに繊維の入ったクロスが貼ってあります。

衣類などにつく虫がピアノにも入り込むことがあり、フェルト類が齧られて役割を果たさなくなりことがあるので、その場合には新しい物に交換します。

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虫に齧られたキーブッシングクロス(バランス)

虫に齧られたキーブッシングクロス(バランス)

ここでひと仕事する前にコーヒータイム
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…ではなくて、
古いクロスの接着剤を蒸気で溶かして剥がします。
カフェ時代にコーヒー屋さんにいただいたコーヒー用のポットは注ぎ口が細くてお気に入りです。

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2〜3秒蒸気に当てると接着剤が柔らかくなるので、ピンセットで剥がします。
今日は暖かい日だったので、蒸気が写真に写っていなくて残念(笑)

バランスブッシング交換

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剥がしたブッシングクロスと新しいブッシングクロス

剥がしたブッシングクロスと新しいブッシングクロス

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接着剤を付けて、新しいブッシングクロスを貼ります。
穴の両側に貼るために新しいクロスの両端から使用するのですが、新しいブッシングクロスは(2つ上の写真)そのために真ん中で一度折り曲げて巻いてあるところが、バットスプリングコードと同様にメーカーの親切心を感じます。

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クサビで穴の両側にクロスを押さえつけながら貼っていきます。

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白いピアノは変色する?

「白いピアノは変色する?」

結論から先に言うと、黒いピアノとほぼ同等です。

メーカーで生産されたままのものでいうと、白よりも木目のピアノの方が、紫外線によって変色したものを多く見かけます。

変色したピアノ

紫外線によって変色した木目のピアノ。トップカバーがかかっていた部分の跡がくっきりわかります。

ピアノが置いてあった場所に大きく左右されますが、日光を直接受けたり床に反射して受ける場所においてあったピアノは紫外線による日焼けの影響をかなり受けます。

とくに木目のピアノはメーカーや生産年代で使われている塗料の種類が様々で、着色に使われた塗料が染料系のもの(パソコンのプリンターの着色料などに多く使われているものと同じ系統)は経年により色が抜けやすいですし、その上にコーティングしてあるトップコートの質もかなりまちまちです。

それでは、黒いピアノは変色しないかというと、実はそうでもありません。

木目のピアノの場合と同じで紫外線の影響は受けますので、塗膜が劣化して白っぽく曇った様になったり、指で触ると色落ちする様な感じで粉っぽくなったりするものもあります。

塗装面の変色や変質は元々塗ってある塗料の質にも大きく依存するので、白いピアノも大量生産時代の廉価版のピアノや、後で塗り直した業者さんの知識やコストパフォーマンスなどの都合によっては、数年で変色してしまうものもある様です。

以下は、他業者さんが全塗装した白いピアノが変色して、それを当方で直す様にご依頼いただいたときの作業の様子です。

入庫時の様子

お預かりした状態の変色した白いピアノ

全体にタバコのヤニみたいな汚れがついていますが、塗膜に染み込んでいて擦っても落ちませんでした。

白いピアノの変色

拡大した様子

金属部分の錆はそれほど酷いわけではないので、施行後の年数もそれほど経っている感じではありません。

白いピアノの変色直し
ただ、内部にはねずみが巣を作っていた跡などもあり、使用や保管の環境的にはあまり良くはなかった様子でした。

部分的に表面を削って磨き直しをしてみたのですが、変色は塗膜の深い部分まで進行していましたので、本当ならば現在の塗膜をすべて剥がして再塗装したかったのですが、お客様のご予算的な都合もあって劣化の酷い部分を優先的に再塗装し、残りの部分は表面を削り取って再研磨するという作業を行うことになりました。

白いピアノの再塗装

劣化の酷い部品を同色で再塗装している様子。

再仕上げした白いピアノ

鍵盤や金属部分なども再び磨き直し、再び組み上がった様子です。

白いピアノの再仕上げ(全体像)

仕上げ直した白いピアノの全体像です。

塗膜を削って磨き直した部分は若干濃いめに変色した跡が残っていますが、表面のツヤも蘇ってお客様には満足していただけた様子でした。

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塗装の技術や知識に関して…
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リ「メイク」

「リメイクピアノ」という名称は、ピアノを塗り替えるというサービスを始めたときに「リフレッシュ&メイクアップ」の頭文字を組み合わせて無理矢理(笑)つけた名前だということは先日もちらっと書きましたが、「メイクアップ」という意味での基本的なスタンスは、伝統的な装飾ピアノの持つ意味合いとは少し異なるのかもしれません。

もちろん、ライフスタイルやインテリアに合わせてピアノを装飾するという意味合いは共通なのですが、当工房が1番の目的とするのはピアノを使う人が「ピアノに向かう」という動機付けの部分です。

これを説明するのはなかなか難しいのですが、ひとつのたとえ話として、「メイクアップ」に関する興味深い動画がありましたので、ここで引用させていただきたいと思います。

これは良い動画なのでなるべく大きな画面でフルスクリーンで見てもらいたいのですが、癌の治療中の患者さんたちに一瞬でも癌のことを忘れてもらうためのサプライズ・プログラムなのだそうです。

がん患者が大変身! 驚きと喜びの瞬間を捉えた感動的な動画

メイクを施された患者さんが目を開けた瞬間の驚きと歓びの表情で、観ているこちらも自然と笑顔になってしまいます。

この患者さんたちの表情から連想したのは、小さなおんなの子がお母さんの真似をしてお化粧(いたずら?)している光景です。

お化粧1

お化粧2

癌患者さんたちは「癌のことを忘れた」というより「生きているということを思い出した」のかもしれません。

自分自身はファッションやブランドにはとても疎いのですが、テレビでやっているオートクチュールなどのファッションショーの様子を見るのが好きで若い頃からよく見ていたのですが、Vivienne Westwoodさんのショーのモデルさんたちがステージで見せる表情がまた、この表情に近いと感じることがよくありました。

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なので、Vivienneさんはきっと「生きているということを思い出す」ことが上手な人なんだと思いますが、

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この写真なんか、上の動画を地で行ってる感じがします(笑)

vivianneさんといえば、マルコム・マクラーレンとともにイギリスのパンクの仕掛人みたいな人なので、こういう格好をしても堂に入った風格さえ感じます。

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シド・ヴィシャス(セックス・ピストルズ)とヴィヴィアンさん

素敵な “Dame” ですね。

「リメイクピアノ」の説明のつもりが脱線してしまった気もしますが、ピアノリメイクの「メイクアップ」の部分も、スタイルが先行するのではなく(夢中でお化粧ごっこをするいたずらっ子の様な)心で感じることがまず第1という思いがいつもどこかにあります。

ちなみに、BBピアノの「BB」は「Bad Boy」(いたずらっ子)の意味を含んでいます。

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追記:

参照:Mimi Foundation ”Ne serait-ce qu’une seconde”